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▼しっぽのゆくえ

 

 ことのはじまりは、ヤムライハの開発した魔法薬を見つけたことである。

 ヤムライハは我が国――シンドリアの優秀な魔導士だ。彼女は明晰な頭脳の持ち主であり、その知識と魔法でシンドリアを守護する八人将のひとりであり、実績と研究熱心な姿勢から他の魔導士たちからも厚い信頼を得ている。ヤムライハの存在に助けられたことは数知れず――例えば煌帝国第八皇女練紅玉姫君との淫行騒ぎの際、彼女の透視魔法で真実が明らかにされなければ、俺の信頼は地に落ち、開戦を阻止する手立てとして身を固める事態になっていた。

 そんな優秀で頼りになる彼女には困ったところがあった。

 ヤムライハが黒秤塔の一室に引きこもって十日になるという。知識交流の場である黒秤塔は銀蠍塔の隣り、白羊塔の向かい側にある。仕事終わり、中庭を突っ切って黒秤塔を目指す。塔の中に足を踏み入れると、授業を終えた生徒たちが他愛のない会話をしながら出てきた。気づいた数人が口を止める。

 年若い学生たちとの会話を楽しみたくはあったが、目的があって足を踏み入れたのだ。微笑みかけるだけに留め、王や一部の官のみが通れる路へ続く扉を潜る。

 物静かな廊下を進み、階段を上がり、また廊下を進む。やがて扉が出迎えた。扉を開けた先はやはり廊下である。門番が扉を閉めたのを見届けた後、目的の部屋を目指して歩き出した。

 最上階の最奥の部屋、そこがヤムライハが常日頃から研究のために引きこもっている部屋だ。部屋の扉を叩くが返事はない。再度扉を叩き、「ヤムライハ」と声をかけるもやはり返事はない。苦笑を零しながら扉を開けると、薄暗く異様な雰囲気が迫ってきた。空気が澱み、不気味な気配に満ちている。

 薄暗い室内を照らすのは、ほんのりと灯る蝋燭ひとつ。所狭しと乱雑に並べられた摩訶不思議な魔法道具が照らされて浮かび上がる。子供が迷い込んだなら不気味さに泣き出してしまう。更には部屋の奥からブツブツと小声が響き、薬品のありとあらゆる匂いが鼻をついた。

 ――ヤムライハを連れ出してください。

 数十分前、眉間に深い皺を刻み込んだジャーファルが俺にそう頼んだ。

 このままでは体を壊す、魔法道具で釣るなり、好みの男性との見合いの話がきているなり、なんでもいいから用件を作って部屋から連れ出してください、と険しい顔で言われて、俺はこう返した。

「お前が言えばいいじゃないか」

「だめなんです。そろそろ部屋の外へ出ていらっしゃいと言ったのですが全然聞かなくて。ここはひとつ王命令で」

「そこまでする必要があるのか。ヤムライハだって子供じゃないんだ。また研究だろう? なにも誰かに迷惑をかける訳でもなし、好きにさせてやれ」

「だめです! もう十日も引きこもってるんです。このままでは体を壊してしまいます。以前だって研究のためと引きこもって、二週間経ってようやく出てきたと思ったらぶっ倒れて寝込んだことだってあるんですから」

 それは確かに心配だ。わかった、と頷くと、安堵して眉間の皺を緩めた。数十分前の会話を思い出した俺は、部屋の様子を知り、決断が正しかったと知る。

 部屋の真ん中で、背を向けて座ってるのはヤムライハだ。紙になにかを書きつけては、魔法道具を手に取り、なにごとか呪文を唱える。呪文に呼応するように魔法道具が身震いをし、炎を吹き上げた。傍らに積み上げられた巻物に燃え移るかと思われた炎は、寸前で角度を変え、しばらく空中を踊っていたかと思うとやがて魔法道具の中へと戻っていった。

 一連の動きを満足げに眺めていたヤムライハはまた筆を持ち、紙と格闘し始めた。あまりにも真剣で声をかけられない。と、その時、ぐう、と腹の虫が鳴いた。

 頭を上げたヤムライハはきょろきょろと左右を見回し、果物籠で視線を止めた。手を伸ばし、果物を掴む。墨で汚れた指で掴んだのは林檎だった。

 一体いつから放置されていたのかわからない哀れな赤い果実は、白い指を受け止め、その身をやわらかく沈めた。……明らかに痛んでいる。

 果物の様子など気にかけることなく口へと運ぼうとするのを目の当たりにして思わず叫ぶ。

「やめろ、腹を壊すぞ!」

「ハッ、王よいつの間に! 今は政務の時間の筈、……もしやご自分のルフを分離させ、実体化させる魔法を見つけ出してこの部屋へ!」

 妙な輝きを放つ目が、俺を見つめた。脳が魔法のことしか考えられなくなっている。ごく普通のことすら魔法絡みだと思い込む。重症だ。

「仕事は終わった。つまり目の前にいる俺は本物だ。分身の魔法ではない」

 伝えると心底がっかりとした様子で肩を落とした。思わずため息が零れた。

「もう十日も籠っているという話じゃないか。そろそろ外へ出ないか?」

「……はい」

「まずはその手に持った果実を置きなさい。それにしても、閉め切っていては昼も夜もわからないだろう」

「ずっと起きていると朝の光が目に痛くて……」

 寝不足の眼球に光が突き刺さる痛みは俺も知っている。知っているが、だからといって十日も光を入れずに、部屋に籠りきりでは体にも精神にも悪い。

 窓を覆っていた布を剥ぎ取ると、光が部屋に満ちた。夕刻の陽はまだ目に優しい方だ。心地良い風も入り込んで、淀んだ空気を押し出す。

「ううっ、光の暴力……」

 目を抑えながらヤムライハが呻く。だが、目を守りながら「光魔法で敵の目を潰すに、効果的な戦術を考えてみてはいかがでしょう、王よ」と呟いた。

「その話は歩きながら聞こうじゃないか」

「実はもうすこしで新しい魔法式を見つけ出せそうなんです! 小一時間ほど籠って実験をすればきっと!」

「ヤムライハ」

「……はい」

 明るくなった部屋でヤムライハを確認すると、脳裏に「駄目だ、これは」と強く浮かんだ。

 目の下には色濃い隈ができあがり、食事も睡眠もろくに取らなかったのか、頬がやつれている。長く青い髪もボサボサで、体臭と薬品の匂いが鼻をついた。徹夜したジャーファルを彷彿とさせる。

 違うのは妙に爛々とした目つきだ。生気のない瞳で黙々と仕事をするジャーファルとは違い、研究に打ち込むヤムライハの瞳は熱っぽく輝いている。その瞳はまだまだ頑張れると訴えているのだ。

 一生懸命物事に打ち込む姿勢は尊敬に値するものであるし、魅力的だと感じるが、これは駄目だ。女性として云々ではない、人間として駄目になる。

「外は良い天気だ。風に吹かれながら歩けば、気分転換になり良い魔法式も思いつく。それから、食事と湯浴みの準備をしていると言っていたからジャーファルのところへ行こう。その後はゆっくり眠って体を休めなさい。明日の夜にでも皆と飲みに行くといい」

「心遣い感謝いたします、王よ。……迷惑かけてごめんなさい」

「気にするな。まあ、あまり皆を心配させるな」

「はい。着替えてきますので、しばしお待ちを」

 着替えのために隣りの部屋へと消えたヤムライハを待つ間、室内を見渡す。

 床に散らばった紙を拾い上げると、新しい防御魔法案や、罠として発動する魔法案などが細かく書きつけてある。着想段階のものもあるが、完成間近な魔法式もあった。それらをまとめて机の上に置く。机上には見慣れない魔法道具が新たに増えている。

 視線を移動させれば、魔法薬がずらりと並ぶ棚が目に止まる。興味深く眺めていると、七色に輝く液体を見つけた。液体に満たされた瓶を手に取って光に翳すと、角度を変えるたびに様々な色へ変化した。美しさに感嘆の息を吐き出すと、

「それは失敗作なんです」

 着替えを終わらせたヤムライハが説明してくれた。

「美しい色をしているのになあ。なによりお前が失敗するなんてめずらしい」

「魔法とは探求の日々、成功以上に失敗はつきものです。それに失敗から新しい発見をすることもありますから」

「何事も試行錯誤、か。この失敗はなにを産んだんだ?」

「残念ながら、なにも。猫の耳が生えるだけなんてなんの役にも立ちません」

 苦笑を浮かべながら瓶を取り上げたヤムライハは失敗したという魔法薬を棚へと戻した。

「猫の、耳?」

「はい猫の耳です」

 数ヶ月前他国から贈られた猫を思い浮かべる。青灰色の猫と、真っ白な猫は、巻物を齧るねずみを退治するためにと二匹揃って船でやってきた。

 その愛らしい容姿は文官や武官、侍女と、王宮に暮らす人々を魅了した。もちろん俺も例外ではない。やわらかい毛並みは撫で飽きず、優しく撫でればぐるぐると喉を鳴らし、愛らしい声で甘えてくる。その様子はいつまでもいつまでも眺めていられそうだった。

 いつまでもいつまでも猫を撫で回す俺に、ジャーファルは眉を顰めて「ほら、仕事の時間ですよ。いい加減になさい」と小言を零した。

 こんなちいさくて愛らしい動物を愛でずにいられるなんてジャーファルくんはなんて冷たいんだ! と軽口で応戦した俺はなんて愚かだったか。ちいさくて愛らしい、それだけでジャーファルの理性を壊すには十分すぎた。

 ジャーファルは人前では興味のない振りをしながら、仕事を終わらせた後、猫の元へと赴き、魚や肉を食べる様子を存分に堪能していたのだ。

 事実が発覚したのは、猫がねずみを捕らなくなった、と世話を任せていた文官から報告を受けた時だった。病気かなにか、と心配する俺に文官はこう言った。

「腹が膨れているので、ねずみを捕る必要を感じないのでは」

 文官の言葉を聞いた瞬間、脳裏に浮かんだのはジャーファルだ。まさか子供たちへするように食物を与え、肥え太らせているのではあるまいな。

 疑念は膨れ上がり、頭から離れなくなった。疑念はほぼ確信に近く、しかし最初から疑うのもどうかと悩んだ末にジャーファルをつけることにした。

 仕事が終わり、浮き足立った様子でどこかへ行くジャーファルの跡をつけると、案の定書庫へと向かった。

 慣れた様子で舌を鳴らして猫を呼ぶ。にゃおっ、と嬉しげに鳴いた猫は足下にまとわりついてなにかを待っている。懐から取り出されたのは乾燥させた小魚だ。

 布の上に小魚を置いた部下が猫に向かって「いっぱい食べるんだよ」と、蕩け切った笑顔で地べたに頬杖をついている姿を目撃した王の気持を考えて欲しい。

 呆れて声も出ないとはこのことだった。

 あれ以来、俺と一緒の時でない限り猫との接触は禁じている。ひどい、とのたまったジャーファルに切々と説教をした夜を思い出すと、今でも頭が痛くなる。

 体重も元に戻り、ねずみを捕るようになった猫は、今も書庫で己の仕事をしていることだろう。

「猫の耳が生えたら、どんなちいさな音でも拾えるのではないかと思って研究を始めたんです。諜報活動に役立つのでは、と研究したはいいのですが、最初の薬では猫の耳が生えるだけで音はなんにも聞こえなくて。それから幾度か挑戦して成功はしたのですが、あまりにも色んな音を拾いすぎてとても実用できるものではありませんでした。これは失敗した最初の薬です。……冷静になると猫の耳が生えてる人間なんて目立ちますし、諜報活動どころではないと気づくのですが、思いついた時は成功させることばかりに気を取られてしまって。これは趣味で開発しただけですが、国費を使う場合はもっと考えなくっちゃ……」

「ヤムライハ、これを俺にくれないか」

「それは、かまいませんが……」

「仕事に役立つものばかりが良いものではない。実におもしろそうじゃないか!」

 人間に猫の耳が生えるなんて実に楽しそうだ。

 動物の耳が生えた人間を見たことがある。あれはある金属器使いの眷属だった。

 眷属と同化することによって容姿が変わることはめずらしくない。ぴくぴくと頭上で動く耳は実に愛らしく、悪くないと思ったものだ。だが、俺は眷属たちを同化させようとは考えていないし、禁じている。眷属同化させずに動物の耳をくっつけられるならば素晴らしい魔法薬じゃないか!

「あの、やっぱり、だめ……」

 不穏なものを感じ取ったのか、ヤムライハが難色を示し始めた。

「礼と言ってはなんだが、今度一緒に新しい魔法陣を考えよう」

「どうぞ!」

 魔法薬が俺の手に手渡される。手の中で輝く七色を眺めていると、心が浮き足立つのを感じた。

 

 

 

 

 

「仮装祭をしようと思う」

 予定していた議題を片づけた後、白羊塔へ向かおうとするジャーファルを呼び止めて俺は言った。

 先日ヤムライハから貰った猫の耳が生えるという魔法薬――猫耳薬をどうしてもジャーファルに飲ませてみたいと考えた末に思いついた案だった。皆が仮装するならばきっと自然な流れで、違和感なく、猫耳の生えたジャーファルを見ることができるはずだ!

 ジャーファルは可愛い。猫も可愛い。あの三角の、ぴくぴく動く耳が、可愛いジャーファルにくっついていたならば相乗効果で更に愛らしくなること間違いなし。そう、俺はどうしても猫耳のジャーファルを見たい。

「仮装……、ですか」

「ああ、普段と違う格好をして皆で楽しむんだ。面白いと思わないか?」

「良いんじゃないですか。新しい試みが成功すれば目玉にもなりますし。そうですね、成功したら観光客向けに貸衣装屋も用意しましょうか」

「おおっ、乗り気じゃないか!」

「良い案であれば後押ししますよ。では早速告知のための張り紙でも」

「準備が必要だからな。……お前は思いつきそうか?」

「なにがです」

「だから、どんな仮装をするのか」

 そわそわしながら問いかけると、不思議そうに俺を見上げた。

「やりたい人だけやればいいじゃないですか。あなたは、もちろん仮装なさるんでしょう? ご入用のものがありましたら手配しますから教えてくださいね」

「……嫌だ」

「え? なさらないのですか。ご自分で言い出したことなのに」

「仮装はする。お前も仮装しろ」

 乗り気だった表情が一瞬にして無に変わる。

 以前踊り子の衣装だの、娘たちの間で流行している衣装だのを着てみないかと言い出し、困らせた過去が仇になった。

 細められた目は、俺の思惑を探ろうとする目だ。じっとりと見つめた後、大きく息を吐き出し、口を開こうとする。その反応は想定内だ。

 言葉を遮り、問いかける。

「ジャーファル、お前の役職はなんだ」

「政務官」

「そう国事に携わる大切な役職だ。それから文官を纏める頭であり、八人将のひとりでもあるな。シンドリア国王シンドバッド王の忠実なる部下であり、大切な、大切な仲間でもある」

「ええ」

 わずかに口元が緩む。釣られてこちらも頬を緩ませてしまいそうになるが、目的達成のために表情を引き締める。

「そんなお前が皆の手本にならずにどうする!」

「お言葉ですが、仕事人間である私に宴の席で皆の手本となるような仮装ができるとお思いですか」

「安心しろ、俺が手助けしてやる」

「お断りします」

「何故だ!」

「……させたい仮装があるのでしょう?」

 冷たい目が見据えてくる。単刀直入な切り返しだ。即否定しては逆に怪しまれてしまうし、肯定しては拒絶が待っている。言葉を吟味し、答えなくてはならない。

「仮装してくれるならなんだっていいんだ。折角だから普段と違うお前も見てみたいと、それだけなんだ」

「ふぅん。衣装の決定権は私にある、とおっしゃりたいのですか」

「ああ。イムチャックの民族衣装なんて可愛いんじゃないか。アルテミュラでもいいし、ササンだって悪くない。エリオハプトは、……難しいとして、身近なところでは侍女の衣装もいい。街娘も悪くない」

「では、どんな衣装を選んでも難癖つけては却下して、シンの好みを無理矢理押しつけてこない?」

「もちろんだ」

 にっこり笑顔で返すと、考え込む仕草になった。これでもう了承したも同然だ。約束はしたが、難癖つけて猫耳を生えさせるつもりだ。そもそも目的はあの丸い頭に猫の耳をくっつけることであり、衣装はなんだって構わない。

「今の約束を必ず守ってくださるなら」

「誓おう」

「……わかりました」

 第一段階は無事乗り越えた。次はどうやってあの薬を飲ませるかだが、ジャーファルがどんな仮装をするのか聞いてからでも遅くはない。

 

(中略)

 

「……禁酒、半年できますか」

 目の端に涙を滲ませながら問いかけられる。半年という数字に怖じ気づきそうになるが、弱々しい潤んだ瞳で見つめられると色欲が勝った。

「わかった。半年の禁酒を約束しよう」

 重々しく頷くと瞳に絶望の色を映した。断ることを期待して無茶な期間を言い出したのだろう。

 ジャーファルは俺が握りしめている尻尾付きの玩具を見つめた後、頭を抱えて唸り始めた。うううっと唸り、逃げたい……と呟いている。

「ほんとに、つけなきゃだめなんですか……?」

「だぁめ」

「禁酒ぐらいこんなことしなくてもしてください! どうして私がここまで体を張らなきゃいけないんですか! 大体、禁酒を持ち出せば私がなんでも言うこと聞くと思ってらっしゃるんでしょう!」

 半べそをかきながら訴えるジャーファルに笑顔を向け、口を開く。

「それはな、俺が禁酒なんて心底嫌で、でもお前は禁酒させたいからだよ。それに、禁酒を持ち出さずともお前に了承させる方法などいくらでもある。これはせめてもの俺の誠意だ」

「絶対に、絶対に禁酒してもらいますからねっ! 絶対ですよ!」

「男に二言はない。……ちなみに仮装祭の後からでもいいか?」

「仮装祭の日だけは許します。でも、宴までの間も禁酒してもらいます」

「……わかった。話はまとまったな、では早速!」

 禁酒を思うと胸が塞ぐが、今は目の前の楽しいことに集中しよう。尻尾を懐に突っ込み、ため息ばかりのジャーファルを横抱きして持ち上げると、寝室へと連れ込んだ。

 寝台へ横たえると、一層大きなため息を吐き出す。それでも、寝台へ背を預けると足を開き、そろそろと腰布を引っ張り持ち上げた。傷跡のある白い足がお目見えする。その奥には秘裂が見え隠れした。

 数え切れぬほど体を重ねたが、未だに恥じらいを露にする様を目の当たりにすると愛おしさが溢れる。白い頬は朱色に染まり、布を掴む指はかすかに震えていた。

 恥じらう姿を堪能した後、寝台の横に備えつけてある机の引き出しから潤滑油を取り出す。足の合間に体を滑り込ませ、両足を掴んで肩へ乗せた。大きく足を上げさせたせいで、ジャーファルの上半身は寝台へと沈む。

 視線を落とせば、眼下には肉の割れ目がある。その近くには後孔。どちらもおいしそうだ。

 瓶を開けて手のひらにたっぷりと潤滑油を垂らす。ぬるぬるになった指で後孔を突くと、体が跳ね、腕を掴まれた。

「なっ、なんで」

「なんでって尻尾だぞ? 尻尾が前についていたらおかしい」

「ですが、だって」

「だってじゃない。なにを言ってもやめない」

 泣き出しそうに顔を歪めたが、覚悟を決めたのか目を閉じておとなしくなった。

 窄んだ後孔に人差し指を挿れる。まずは第一関節、次に第二関節。指の根元まで差し入れた後、内壁を撫でながら指を引き抜く。

 何度か繰り返して慣れた後、今度は指を二本挿入した。中に侵入させた指をばらばらに動かし、肉を撫で、穴を押し広げる。

「は……っ、うぅ」

 後孔を解す時はたっぷりと時間をかける。本来、物が挿入されることのない器官だ。時間をかけて悪いことはない。それに前の穴を弄られるより羞恥が強いのか、羞恥と苦痛、それから快感の入り交じった表情を見せる。それを見たい。

 ジャーファルは目を閉じたまま必死に耐えている。額には汗が浮き、時折肺に空気を取り入れようと喉が喘いだ。

 頑なだった窄まりから強張りが解けたのを確認し、待望の尻尾を取り出す。予告するように玩具を後孔に擦りつけた。先端が後孔に埋まると、くう……っ、とちいさく喉を鳴らしたが抵抗はなかった。

 なるべくゆっくりと中へ差し入れ、奥へと押し進める。玩具の部分が肉へ埋まると、後はふわふわした尻尾だけが外部に出ている。

「終わったぞ」

「は……ぁ、いつ、抜いて、……」

「俺の気が済んだら抜いてやるから安心しろ」

 肩に置いていた両足を下ろし、体も起こしてやる。尻をついた状態では落ち着かないのか、立て膝をついた。

「よし、じゃあもう一回猫真似をしてみようか」

「わかり、ました」

 早く終わらせれば早く抜いてもらえると判断したのか、実に素直だ。

 はあ、はあ、と息を荒げながら、四つん這いになり口を開く。

「にゃ、ん」

 熱っぽく潤んだ目に、上気した頬、艶を含んだ鳴き声。猫の耳はぷるぷると震えている。下半身により一層血が集まり、滾る。

「横になって、体を丸めてくれるか?」

 のそのそと体を動かし、言った通りの格好をする。腰布からわずかに尻尾の先が覗いていた。

 手を伸ばして腰布を掴み、太腿の辺りまでめくり上げる。白い太腿に尻尾が寄り添っているのが、しっかりと確認できた。

「……にゃ、にゃあ……」

 健気にも鳴き真似をしてくれるジャーファルがあまりにも愛おしくて、思わず頭を撫でた。

「お前は良い子だから、好きなようにしてやる。どうして欲しい?」

 はぁ、と熱の籠った息を吐き出したジャーファルは、唇を震わせながら欲を伝えた。

「もっと、いっぱい褒めて……」

 遠慮がちに伝えられた願いも可愛い。全力で応えなければなるまい。

「お前は頑張っていて偉いなあ。俺の自慢の部下だ」

 嬉しそうに見つめてくるジャーファルの頭を撫で、頬を撫で、おまけとばかりに顔中に口づけを落とすと、気持良さそうに目を細めた。今に喉を鳴らして擦り寄ってきても不思議ではない。喉は鳴らなかったが手のひらにぐいぐいと頭を寄せてきた。

 催促のままに頬を撫でていると、ぺろりと手のひらを舐められた。猫の真似を一生懸命努めているのか、はたまた薬の影響か。

 手のひらを舐めているジャーファルは、そのうち指を甘噛みし始めた。舐めては噛み、噛んでは舐めて、時折鼻先を手のひらに押しつける。たまに上へと向けられる視線は、ご褒美をねだっていた。尻尾はゆったりとした動きで布を打っている。

 やがて手のひらを舐めることに飽きたのか口を離し、今度は上半身を起こして、顔を近づけてきた。

 軽く触れるだけの口づけをした後、ぺろっと唇を舐める。真っ黒い瞳は熱で潤んで、蕩けていた。そんな目で見つめられると、体温が上がって呼吸が苦しくなる。

 この苦しさを解消する方法は知っているが、もうすこし見ていたいのも事実だ。選ぶのが困難な選択肢に眉を寄せていると、ジャーファルが下へと視線を落とした。

 釣られて落とすと、正直なことに股間が盛り上がっている。

「…………」

 しばし黙り込んだジャーファルはといえば、俺の腰布をめくり上げ、股間へと顔を落とした。止める理由はないからしたいように任せると、予想通り俺のものを咥えた。