哀れむというより、小馬鹿にした目でジュダルは言う。否定も肯定も出来ず、曖昧に笑えば、不機嫌そうに眉を顰める。
「欲しいものがそこにあんのに、手ェ出さねえとか変だろ」
「そう単純に手に入るものではないのだ」
ジュダルは理解が出来ないのか、ただ不機嫌そうに睨みつけるばかりだ。ひどく落ち着かない様子で、
「もうお前は俺のもんだよな?」
「そう思うならば、思えばいい」
「……」
俺の答えに不安げに目を細める。体を繋げただけで自分のものになるならば、どれほど簡単な話だろう。しばらく考え込んでいたが、やがて髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜ、気持悪いと呟いた。
「なんか、気持悪い」
怒っているような、泣き出しそうな変な表情でじっと見つめてくる。以前は気付かなかったが、ジュダルには捨てられた子供のようなところがあった。人として生きてゆくために必要な温もりが欠けている。縋るような、射抜くようなその視線は誰かを思い出させた。記憶をたぐり寄せるまでもない。出会い、しばらく経ってからのジャーファルの目に似ていた。人の愛情を値踏みするような視線は痛々しくて、決してこいつを見捨てまいと誓わせた。だから、気に喰わぬ、慣れ合うべきではないと思いながら、拒み切れなかったのだろうと思う。
いまだ落ち着きのないジュダルの頭を撫でてやる。幼い頃のジャーファルはこうしてやれば、表情が和らいだものだったが、ジュダルの表情は反対に強張ってしまった。
「……あの人はひどい人でしょう?」
名前はジャーファルだという。身体的な特徴でしか個別を認識しないものだから、何度か名前を聞いてはその度に忘れた。だからいまでも、そばかす、としか呼ばない。
「優しさで捕らえ、二度と逃げられなくなる」
愛情を知らぬ者には麻薬より質が悪い、自嘲気味に笑う顔に後悔などない。
「お前を殺せば、あいつは」
「だめですよ、そんなことを考えては。私を失えば、あの人はあなたを許さない。体を繋げても、情が移っても」
何故そう言い切れるのか問う前に、そばかすは答えた。
「だって、そうなりたくて私は今まで生きてきたのですから」
気の遠くなるような話だった。それから、静かな目で佇む男の体の中に何が潜んでいるのか知りたくなった。
王は何も言わない。王は私を見ている。私は知らぬ振りをして机に向かう。不意に、子供の噛み付くような口づけを思い出して苦笑が零れた。あの子供は自分が何を欲しているか、まだ知らないのだろう。王は与えるだろうか。昔、私に与えてくれたように。それは難しいことに思えた。あの子供自身に大きな罪はなくとも、あの子と私たちの間には深い溝があった。昔の記憶が過る。国が傷付き、私も傷付いた。なにより王が傷付いた。思い出すと胸が締め付けられるように痛む。生きてゆく限り、永遠に付きまとう。それでも和らげることは出来る。寄り添い、支え合うことは出来る。
「……ジャーファル」
静かに私を見つめているばかりだった王が名前を呼ぶ。
「はい」
振り返り、微笑む。
「帰ったようだ」
「そうですか。相変わらず嵐のような子でしたね」
「ああ。あいつが帰った後はひどく疲れる」
「今回も、随分と振り回されたでしょう」
「人が真面目に仕事をしていれば片っ端から書類を折り外に飛ばしたかと思えば、ばたばたと走り回り集中力を削ぐ」
困ったものだ、と笑う王の顔に嫌悪はない。
「ええ、次はあなたの仕事中だけでも大人しくしていてくれるといいんですけどね」
「時間外であれば俺がどれだけ振り回されてもいいのか」
ひどい部下もあったものだ、わざとらしく拗ねてみせる姿が子供のようでおかしい。
「振り回されるの、お好きでしょう?」
意地悪な気持で問うてみれば、お前にも散々振り回された、と懐かしむように言われ、どうしてだろう泣きたくなるような郷愁に襲われた。そこで私はあの子供が少しだけ羨ましいのだと知れた。
2011.0525 / 愛情の行方
シンジャで、シンジュでジュジャ?
シンジャで、シンジュでジュジャ?