肉の壁は性器に絡みつき、収縮し、快楽を与えていた。下半身ごと蕩かされるのではないかと危惧するほどに体内は気持良い。これが快楽を与え、精を搾り取るための体なのかといっそ感心するほどだった。しかし、体よりなにより、猛った性器を受け入れ、うっとりと息を吐き出す目の前の夢魔の表情ほど理性を揺るがせるものはない。
頬は上気し、これ以上なく幸せそうな顔をしている。胸の奥から、ほぅ、と息を吐き出し、口を開く。
「……いっぱい、注いでくださいね」
蕩けた声が誘惑する。ゆるゆると腰を揺らし、快感を引きずり出そうとする。慌てて押し止め、頬を撫でた。
「軽蔑、なさっているんでしょう……?」
不安げに目を潤ませ、そんなことを呟き出す。頬を撫で、髪の中へ手を梳き入れると体が震え、きゅうっと締めつけてきた。これもいけなかった、と手を離す。
「はしたないのは、わかって、いるのですが、止められなくて」
止められないと言いながらも、じっと耐え、動いていいと許可が出来るのを待っているようだった。切なげに見つめてくる目に頭がぐらぐらとし始める。思いきり突き上げ、中に注ぎ込み、最後の一滴まで搾り取られる快感は忘られるものではない。望めばすぐに得られるものだ。だが、堪える。
一度、理性を飛ばし、欲望のままに責め立て、どろどろになるまで性交をしたことがある。翌日、腰が抜けた。足腰に力が入らず、ひどい目にあった。もう許してくださいと泣くほどに責め立てられ、幾度となく中に精液を注ぎ込まれたジャーファルはといえば、平然としていた。むしろいつも以上に元気だった。ああこいつは魔物なのだなぁ、と改めて認識した出来事だ。
その日一日動けず、寝台で過ごす羽目になるのは避けたかった。満たされた薔薇色の頬で、ごめんなさいと謝り続けるジャーファルに甲斐甲斐しく世話を焼かれるのは嫌ではなかった、が、そういう問題ではない。おそらく、あれを結構な頻度で続けていれば、俺の死因は腹上死だ。確実に死ぬ。
他の誰でもない、ジャーファルに精を搾り取られて死ぬのならば、そう悪くはないと思わなくもないが、俺がいなくなった後、どうやって生きていくのかを考えると胸が締めつけられて苦しい。もうすこし器用であれば、もうすこし性に対して奔放であれば心配などしなくてもいいのだろうが、こうやって体を繋げるようになっても、行為自体にはどこか初々しさが残るジャーファルにそれらを望むのは無理なことだった。なにより、行く先を心配している癖に、俺がいなくなった後に、他の誰かから糧を得るのかと思えば、腹の奥底から暗い気持が沸き上がる。嫌だと、許せぬ、と思う気持がある。だから、すこしでも長く共に過ごせるように自制しながら体を繋げていた。
そんな気持など知らぬジャーファルは、堪えるように唇を噛み締め、じっと見つめてくる。目が、はやく、とねだっている。
「……ゆっくりな」
そう言ってやれば、安堵して詰めていた息を吐き出す。俺の肩に手を掛けて支えにすると腰を持ち上げ、言われた通りゆっくりと落とし、咽を震わせた。
「んん、……っは、あ、あ」
何回か繰り返されるうちにもどかしくなってきた。熱く絡みつき快感を与え続けてはいるが、射精するには至らない。潤んでいた目からは涙が零れ、嬌声の合間にすすり泣きが聞こえる。同じようにもどかしく感じているのだろう。
「お前は、すこし、聞き分けが良すぎるな」
「あ、なたに……シンに、……」
軽蔑されたくない、と泣きながら訴えられ、全身の血がたぎる。頬を撫で、涙を掬い取る。
「軽蔑、など、するものか」
本当ですか、とそれでも不安げに呟くジャーファルを安心させるように頬を撫でた。ジャーファルは、頬を撫でる俺の指を見つめ、ぱくっと口に含んだ。舌が指に絡みつき、這う。腰の動きを止め、両手で俺の手を包み込んだ。愛しげに一本一本の指に唇を押しつけ、愛撫する。形良い歯が甘く噛む。
「……あなたの、すべてが愛おしい」
新しい涙が頬を濡らす。俺もだ、と左手で頬を撫でた。
「好きなように動け」
「……はい」
蕩けた目が細められ、一度、息を吐き出してから、またそろそろと腰を持ち上げる。今度は勢いをつけて腰を落とす。思いきり内部を抉られる快感に堪え切れなかったのか、一際大きな嬌声が上がる。
「ああっ、ふ、ぁ、っやぁあ!」
腰を持ち上げ、落とす。単調な動作ではあるが、頭がおかしくなるかと思うほどの快楽が全身を打ち、熱で思考が麻痺する。たまらず、腰を掴み、深く引き落とす。
「…………ッ、あ」
刺激が強過ぎたのか、声が咽奥に吸い込まれ、背中が仰け反った。一段ときつく締めつけられ、堪らずジャーファルの中へ精を吐き出す。あ、あ、と咽を震わせ、そのまま後ろへと倒れ込みそうになる体を慌てて引き寄せる。唇の端から唾液が零れ、目の焦点が合っていない。下腹部を見遣れば、先端から白い液体がとろとろと零れている。指先で掬い取り、先端に塗り込むようにして擦る。
「やっ、だ、めっ、だめです!」
慌てて指を押さえ、引き剥がそうとするが、力を込められない体では難しいようだった。人のに比べ、吐き出す量が少ないのは、精を搾り取る後から吐き出していては意味がない、ということなのかもしれない。一度達して萎えていた性器が手のひらの中で固くなっていく。同時に、体内もきゅっと締めつけてくる。
「……もう、一回、ですか?」
体内で大きくなっていく性器を感じているのだろう、どこか不安げに眉を寄せて、問いかけてきた。その癖、期待を含ませた縋るような目で見つめてくるのだから可愛くてたまらない。
「いっぱい注いでくれ、と言っただろう」
……言いました、と言葉を落とし、照れたようにはにかむ。顔が近づいてきて、唇に触れるものがあった。軽い口づけに目を見開けば、
「好き合っている者同士も、口づけするのでしょう?」
と、嬉しげに笑う。愛おしさに息が詰まる。たまらなくなって、頭を引き寄せ、唇に吸い付く。口腔へ舌を差し入れ、思う存分掻き回せば、反応するように肉の襞が蠢き始めた。一度引き抜き、体を反転させ、寝台に体を押しつけると同時に後ろから突き入れ、腰を打ちつける。
「あっ、あぁ……!っ、ふぁ、あ、や……っ」
深く穿つように打ち込まれ、嬌声が零れた。背中にある、蝙蝠のような緑色の羽根はちいさく堪えるように縮こまっている。指先で付け根を撫でれば、全身が震え、背を反らした。中の弱いところを抉り、時には掻き回す。はやく、だとか、もう、だとか懇願する声に煽られ、腰を押し進め、ひたすらに快楽を貪る。二度目の射精の後、引き抜くと、後孔からとろりと精液が零れた。腹の中は精液で満たされているだろうと思えば、安堵とも、満足とも取れる感情が胸を占めた。
ジャーファルは全身を震わせ、寝台に身を任せている。はあ、はあ、と息を吐き、時折、体が大きく震えた。尻尾も羽根も、だらしなく伸ばされている。隣に身を横たえ、ジャーファルを引き寄せた。
「……あ」
うっとりと目を細め、俺を見上げるが、視線は合わない。恍惚とした表情のままで、夢でも見ているようだ。胸に頬を擦り寄せ、目を閉じる。しばらくそうしていたが、やがて目を開け、ごちそうさまです、と微笑んだ。
2011.0915
もっといろいろ設定詰め込みたかった。