朝起きて、目を開けたら知らない女が隣りで寝ていた。知らない女だが、とても見慣れた顔をしている。毎朝見る寝顔だ。ぴたりと閉じた目蓋、顔の真ん中にちんまりとくっついてる鼻、その鼻先から頬にかけて薄茶色のそばかすが散らばっている。こぢんまりとした唇が時折寝息を吐き出す。
――夢か。
そう結論付けて目を閉じた。目覚めたばかりの頭は眠りと親しい。すぐさま眠気がやってきて、思考が薄らいでゆく。意識を引き戻したのは、ううん、と唸る声と胸元に擦り寄ってきた頭だ。女の吐き出した吐息が肌に触れる。隙間なくくっつかれた体にやわらかい感触が押しつけられた。小ぶりだが、やわらかく吸いつくようなふくらみだ。
「…………」
素足が足に絡んでくる。肌と肌が擦れ合う感触に、腰の辺りがむずむずし始めた。これはまずい。夢だというのにやたら現実的な感触をしている。そもそもこれは本当に夢なのか。考え、夢に決まっていると結論付ける。それから、ふと思い出す。
確か幻覚を見せる力があると言っていた。つまりはこれも幻覚に違いない。目蓋を開き、胸元にくっついているジャーファルに似た女を見る。昨晩性交したせいで何も身に着けてはいない。白銀色の髪と、丸っこい羊のような角もジャーファル以外には有り得ない。腰つきはいつもと違い、なだらかな曲線が出来上がり、尻も丸みを帯びている。元々体格のしっかりした方ではないが、普段よりも華奢で頼りない。
無言のまま、そろりと手を伸ばし、押しつけられている乳房を手のひらで包み込んでみた。ふにゅ、と指が埋まる。まるで本当に乳房を揉んでいるかのようだ。幻覚の力、いや魔物の力とは凄いのだなあ、と感心する。
「……っ、あ」
ふにふにふに、とやわらかい感触を楽しんでいると、ジャーファルの体が跳ねた。悩ましそうに眉根が寄っている。頬がうっすらと色づいている。感覚も伝わるものなのか、更に感心する。見ていると悪戯心が沸き上がって来て、口角が持ち上がった。ふくらみの真ん中にある乳首を指先で摘んでみる。
「や……っ!」
いやいやをするように二三度首を振るった後、目蓋が震え、何度か瞬きをした後、不思議そうに俺を見つめた。胸から手を離し、何喰わぬ顔で、
「おはよう、ジャーファル」
そう言えば「おはようございます……」と首を傾けている。それから自分の胸元へ視線を落とし、眉を顰めた後、俺の顔を見、きょどきょどと視線を泳がせた。寝台の傍に落ちていた自分の服を取り上げ、そそくさと着込むがはやいか、逃げた。行く先はほとんど使っていない自分の部屋だろう。
その行動の不可思議さに今度は俺が首を傾げた。自分の手を見つめ、幻覚だよな?と問いかけてみる。答えを与えてくれるのはジャーファルしかいない。同じように脱ぎ散らかした自分の服を着込み、部屋を出る。
閉まった扉を叩いてジャーファルを呼ぶが、返事はない。もしかしたら部屋ではなく、別の場所にいるのかもしれない。台所へ向かうが、ジャーファルの姿はない。居間を見て、物置を見て、再度俺の部屋を見てみるがやはりいない。ジャーファルの部屋の前に戻り、扉を叩くと、ゆっくりと開いた。
「……すみません、混乱してしまって」
わずかに開いた隙間から顔を覗かせて呟く。薄々感じていたが、どうやら幻覚ではなかったようだ。寝ている間に勝手に揉んだことは黙っていよう。
「性別を変えることもできるんだな」
「ええ、……私自身、すっかり忘れていて」
「忘れるものなのか?」
「体を変化させるには魔力が必要なものですから……」
つまり、いつもひもじい状態にあったジャーファルに体を変化させるだけの魔力はなく、だから体を変化させることもなかった、ということなのだろう。それが可能になったということは、いまは満たされているのだ。頬が勝手に緩む。
「部屋に入ってもいいか」
「はい」
ジャーファルがやってくるまで空いていた部屋は、多少片付けられ物は増えたが、やはり殺風景だ。生活の匂いは薄い。ジャーファルがこの部屋で過ごすのは、夜のわずかな時間だけだ。与えられた寝台に横たわり、真夜中に寝ぼけて抜け出す数時間。この頃では、最初から俺と一緒に眠るものだから空き部屋に近かった。
ろくに活用されていない寝台に腰掛け、ジャーファルの頭を撫でる。
「……なんですか?」
「いや、幸せだなあと思ってな」
ジャーファルは不思議そうに首を傾げる。それから、自分の体を見た。一回りちいさくなった体では服が合わないのか、胸元の辺りが緩い。
「私が女性の体になったからですか?」
真顔で問いかけてきた。
「…………違うぞ」
「違うんですか?」
確かに仕事の付き合いで酒を飲んだ日には、酒場の踊り子や女給にちょっかいを出し、甘ったるい匂いをつけて帰ってくることは多いが、どういう風に見ているんだお前。
「もう飢えてはいないのだろう?」
「はい」
「俺が言いたいのは、お前がひもじい思いをせず、満たされていることを嬉しいと、そう思うってことだ」
ジャーファルはただ黒い瞳でじっと俺を見つめる。気障ったらしかったか、言った後に恥ずかしくなってきて軽く頭を掻く。空気を変えようと口を開く前に、細い腕が伸びてきて、首に抱きつかれた。
「ジャーファル?」
「……あの日、私を助けてくださったのがあなたでよかった」
更に腕の力が強まり苦しいくらいだが、引き剥がそうとは思わなかった。優しく背中を撫でて、気持を返す。シン、震える声が耳朶をくすぐった。繰り返される囁きと、それから押し当てられる胸のふくらみに、場違いな感情が涌き出してきた。なんとも空気が読めないことに、体の一部が反応を示し出した。収まれ!と言い聞かせるが、そう簡単に収まるものではない。まずはジャーファルを引き剥がすことから始めなければ、と焦りさえ生まれ始めた。お互いの気持を確かめ合うという心温まる場面で、猛っている場合ではない。そもそも今は朝だ。仕事に行かねばならない。
「…………」
急にジャーファルが体を離した。引き剥がさなければならないと思っていた筈なのに、離れられると、捨てられた犬のような気持になる。
「どうした?」
ジャーファルは俺の顔を見つめた後、視線を下へ落とし、またすぐに俺の顔を見た。
「……ちょっと、説明を」
「シン」
「…………はい」
「お試しに、なられますか?」
予期していた言葉とは正反対の言葉が耳に飛び込んできて、頭の中で反芻する。お試しになられますか。そう言った。何をお試しになられるのか、問い返すまでもないのだが、問い返したい。だが、問い返して「そんなこと言ってません」と突き放されたらどうしよう。お試しになられますか、その言葉が幻聴でないと誰が証明できるものか。
「お嫌ならさっさと戻ります」
「待て、嫌ではない。……いいのか?」
恐る恐る尋ねると、眉を寄せた。
「いいも悪いも、あなたとは何度もしていますし……」
何の問題が?と首を捻るジャーファルの、体が変化したことに対する反応はそんなものだった。そういうものなのか。本人の態度があっけらかんとしたもので、そういうものか、という気分になってきた。たかだか体が変化しただけのこと。ジャーファルはジャーファルでしかない。
手を伸ばし、頬に触れると、嬉しそうに擦り寄せてきた。
「お試しになられますか?」
「ああ、そうしよう」
仕事は午後からでいい。そもそも書き入れ時は夕刻だ。いまの時期は観光客もすくない。多少サボったところで大した損害にはならないだろう。その損害もすぐに取り戻せる。
頬に触れていた手のひらを首へ滑らせると、ジャーファルの体が跳ねた。髪の生え際を指先でなぞると、震えが伝わる。弱いところはすべてこの指が知っている。
「……ジャーファル」
体を引き寄せ、口づけしようと顔を近づければ、慌てたように身を引いた。抱き寄せる筈だった腕が宙に浮いてなんとも情けない。頭の中でやりとりを思い起こし、確かに了承は得たと確認する。再度、腕を伸ばせば、やはり逃げられた。
「ジャーファル?」
「いまは、結構です」
「へ?」
「お腹いっぱいなので、もう食べられません」
無理です、ときっぱり言い切られた。
「それに仕事はどうされるのですか?」
「午後からで……」
「駄目です。そんないい加減なことでは、お客さんの信頼を失ってしまいます」
「いや、一日ぐらい……」
「駄目ですったら。あなたを私のせいで堕落させる訳には行きません!」
俺は割といい加減だぞ!と言い返したいのを我慢する。お前が来るまでは、気分次第で店を開けたり閉めたりしていたし、思い立って別の国に仕入れという名の旅に行ったりもしていたんだ、と言いたいのはやまやまなのだが、いい加減な人だったんですね……とがっかりされたらと思うと、言葉は腹の中に戻った。
「……わかった」
力なく頷けば、嬉しそうに笑う。
「では、食事の準備をしてきます」
立ち上がり、台所へと向かうジャーファルの背を見送った後、寝台に突っ伏した。改めて思う。――あいつは魔物だった、と。
ともかく俺は真面目に仕事に向かったし、客にも真摯に対応し、家に帰った。帰ればジャーファルが待っている。朝の続きができるはずだと、浮き足立って帰った俺を待っていたのは「七日後までこのままでいますね」という言葉だった。
七日後ってなんだ。確かに性交による食事は一週間に一度だ。それ以外は口づけのみで済ませている。長年の飢えに慣れきったジャーファルの体は、毎日の性交を必要としない。要は小食なのだ。その上、相性が良いらしく少量でも十分に満たされるという。もちろん毎日していては、さすがの俺も体が保たないということもある。
だが、それはそれ、これはこれ。性交と食事を切り離すことができないのか。大体、多少食べ過ぎたからといってなんの問題があるというのだろう。魔物ならば魔物らしく、搾り尽くすぐらいの気概を持つべきではないのか。相手の体調を気遣って何が魔物か。
そう言いたいのだが、目の前のジャーファルがあまりにも愛らしくにこにこと笑いながら、「今日はどうでしたか?」やら「お腹空いたでしょう?良いお肉が手に入りましたから、いっぱい食べてくださいね」やら世話を焼いてくるので何も言えない。
「……お前は魔物なのだなあ……」
幾度口に出したかわからない台詞をしみじみと呟けば、ジャーファルは「忘れていたんですか」といつものように笑った。
一週間に及ぶ俺と理性との戦いは割愛する。まさか今までのように一緒に眠るなんて思わなかった、とだけ言っておく。ともかく我慢に我慢を重ねた一週間が経ち、今日が約束の日だ。
「ん、っふ……、んん」
唾液が混じり合い、音を立てる。おかえりなさい、と出迎えてくれたジャーファルの頬を両手のひらで包み込み、口付けた。舌を滑り込ませ、絡ませ合う。いきなりのことで縮こまっていた舌が、たどたどしく応えてくれる。それだけで全身の血が熱くなる。思う存分口腔を犯してから唇を離せば、唾液が糸を引いて、目の前には引きつったように震える舌が赤く充血して差し出されていた。再度唇を付け、今度は軽く舌を吸い上げる。ふるり、と体の震えが伝わった。
「……い、きなり、すぎます」
弱々しい言葉が落とされ、潤んだ瞳に責める色合いが浮かぶ。
「仕方なかろう」
「なにが、仕方ないものです、か」
足に力が入らないのか、俺の腕に縋るようにして立っていた。ちいさく笑みを零して、ジャーファルを抱き上げる。落ちないように慌てて首にしがみつく。やわらかい胸が頬に押し当てられた。
「まずはお前の食事からにしよう」
「……私は、後で大丈夫です」
「いやいや、俺がお前にご馳走したいんだ。……腹いっぱいな」
すり、と押し当てられている胸に頬を擦り寄せると、慌てたように距離を取る。残念だ。寝室の扉を足で開け、寝台を目指す。目的の寝台へジャーファルを放り投げて、傍らに腰を下ろした。ジャーファルは眉を寄せ、唇を尖らせる。
「夕食はどうされるおつもりですか。着替えだって」
「うむ、運動の後の飯はさぞや美味いものであろうな。着替えは今からだ」
言うが早いが服を脱ぎ捨てる。
「……では、着替えを」
と、立ち上がり、寝台から逃げようとするジャーファルの腕を掴み、押し倒す。
「お試しになって良いのだろう?」
ジャーファルはむっつりと黙り込み、そっぽを向く。頬を撫で「どうした」と問えば、ちらりと視線を向けたが、すぐに部屋の隅を見た。
「…………私にだって準備があるのに」
そんなことを言う。準備?と首を傾け、次に、一体どんな準備があるのか、と考えた。身を清めでもするのか。
「食事だって、あなたに食べていただこうと用意したのに」
くるりと体を反転させて、枕に顔を埋めた。すこしばかり怒っているらしい。緑色の蝙蝠のような羽根がわずかに逆立っている。こうなってくると、無理に事を進めるのは躊躇われた。どうせなら同じ気持で体を重ねたい。
「……ジャーファル」
優しく名前を呼び、指で髪を梳く。
「では、先に食事をしよう。それからでも遅くはないな」
「……ええ」
顔を上げたジャーファルの口元には笑みが浮かんでいて、ほっとする。こう見えて一度怒ると一週間は口を利かないし、例え腹の虫が鳴こうがじっと堪えて、怒りが和らぐまで食事もしない。初めて怒らせた時は狼狽えに狼狽え、随分とみっともなかった。何をどうして機嫌を取ればいいのかわからず、帰り道で目に付く物珍しい物全て買い漁って土産として持ち帰った記憶が甦る。そのことが余計に油を注いだのだったと思い出して、苦笑が零れた。あれはもう一年も前のことになる。まだ体の繋がりがなかった頃の話だ。
「俺は何をしたんだったかな」
食事を運ぶジャーファルに問いかける。食卓には湯気を立てるいくつかの料理と、酒瓶が一本置いてあった。料理を置いたジャーファルは、あまり飲み過ぎないように、と酒瓶を抱える。
「何がです」
「初めてお前を怒らせた時だ」
「……お忘れですか?倉庫の片付けをする時に、上から落ちて来た物から私を庇うために」
ああそうだった、と頷く。私ならば怪我をしてもすぐに治るのに、と顔を真っ赤にして怒ったのだった。手当をする間ずっと黙り込み、その後も一言も口を利かなかった。悪かった、もうしない、と言ってようやく許された。
「思い返せば、悪いこともしていないのに怒られるのは腑に落ちないな」
「そうですね。でも、同じことをしたら、やっぱり怒ります」
「だが、俺はまた同じことをするだろうな」
「ええ、あなたならばきっと」
ジャーファルはにこにこと笑い、傍らに立った。食事はしないから、俺が食べる様子を見守るばかりだ。見られながら食事をするのは、最初は慣れなかったが、いまではすっかり慣れた。空になった杯に、新たに酒が注がれる。ふわふわといい気分になるが、これ以上飲むと気が大きくなっていけない。居間で体を重ねると、次の日、節々が痛くなる。
食事の後、本日の出来事を身振り手振りを交えながら話す。どんな些細な出来事も目を輝かせながら聞いてくれるものだから、話す方にも力が籠った。いつもの日常だ。ジャーファルがいなかった日々を思い返すことが難しいほどに、慣れ切った、楽しい日常だ。一通り話し終えた後、「ジャーファル」と名前を呼ぶ。
「お前に触れたい」
瞬きを二三度繰り返した後、ほのかに頬を赤くし「……はい」と頷いた。
「では、先に寝室へ。私は片付けをした後に」
そんなことは後でしろ、と言いかけ、口を噤む。ジャーファルは仕事を残していると、集中できない質だ。本当に魔物にしてはきっちりしすぎている。人間ならば仕官なりしているかもしれない。あの仕事ぶりは重宝されるものだろう。
寝室の灯りを落とし、寝台の傍にある洋燈をひとつだけ灯す。橙色のあたたかい灯りが部屋を照らし、壁に写った影がゆらゆらと揺れた。服を脱ぎ捨て、寝台に横になる。
影絵を作り遊んでいると、扉の開く音がちいさく響いた。振り返れば、ジャーファルがいる。足音もなく寝台まで歩み寄り、ちょこんと坐った。
「……うん?ジャーファル、ひとつ聞きたいのだが」
「はい」
「胸が、その、さっきと違うな」
ささやかだった膨らみが、質量を増し、それはもうやわらかそうだ。
「……こちらの方がよろしいか、と」
「…………」
はたしてどうするべきか。確かにちいさいよりは大きい方が好きだ。窒息するのではないかと思われるほどに大きな胸に顔を埋めるのは決して嫌いではない。嫌いではないのだが、それとこれは別だろう。
「俺は、お前の胸がいいなあ」
「私の胸、であることに変わりはありませんが」
「さっきの可愛い胸の方がいい」
眉を寄せるジャーファルの顔には、折角大きくしたのに、と書いてある。胸の奥をくすぐられる感じがする。ああもうどうしようもないなコイツは、という気持と、可愛くてたまらない気持が混ざり合って、手を伸ばさずにはいられない。
後ろから抱き込めると、
「やはり大きい方が良いのですか?」
問いかけてきた。
「いいや。さあ、さっきまでの姿に戻ってくれ」
ちいさく肩を落とした後、目を閉じ、集中している。「……っん」と短く息を呑み、吐き出す頃には、すっかり元通りだ。それを確かめた後、帯を解く。釦を外し、上着を脱がせると、寝台に押し倒す。唇を塞ぎながら、服の上から胸に触れた。手のひらにぴったりと収まる程度の膨らみを、愛おしげに撫でる。
「……服、を」
脱ぎますから、と胸を押される。大人しく身を引き、ジャーファルが服を脱ぎ捨てると同時に手を伸ばし、首を引き寄せた。舌を滑り込ませ、口腔を丁寧に嬲る。
「っん、ふ……」
鼻から抜ける息がなんとも色っぽい。口腔をまさぐっていると、時折呼吸を取られる感触がある。その度に、白い咽がごくりと鳴った。ジャーファルの白い肌が淡く色づいてくる。目は潤み、呼吸が荒くなってくる。
「……っあ、の」
「なんだ」
「この、体で、精気を、いただくのは……っ、初めてなので……!」
「……ああ、優しくしよう」
つまりは処女ということでいいのだろう。二回目だな、と思ったが黙っておく。唇で首をなぞり、鎖骨を食む。舌先をなだらかな曲線に沿わせ、優しく愛撫する。片方を手のひらで包み込みながら、もう片方の先端を口に含んだ。
「あっ、あ、……っや!」
びくん!と大きく体が跳ねる。反応の良さに気を良くして、口に含んだまま舌先で先端をちろちろと舐め、軽く吸い上げた。
「だ、めです……ッ!だめ、っ」
髪を掴んで引き剥がそうとする。思いきり髪を掴まれて、正直痛い。口を離すと、安堵したように体の力を抜いた。頬は真っ赤で、眦からはいまにも涙が零れ落ちそうな風情だ。視線を落とせば、唾液に塗れた乳房がある。乳首はいえば、ぷっくりと立ち上がり、これで何が駄目なんだと問いつめたくなる様子だった。爪先で軽く弾いてみる。
「……ッあ!だめ、だと……っ」
涙目で睨まれても怖くない。まったく怖くない。顔を伏せ、今度は反対側を可愛がってやることにする。先ほどと同じように口に含み、舌先で舐め、軽く歯を立ててみた。
「やっ、ぁ!……も、う!」
腹立たしげに吐き出し、引き剥がそうとまた髪を掴む。頭皮が痛むが気にせず、わざと音を立てて吸い上げ舐め回せば、そのうち髪を掴む手から力が抜けた。甘ったるい嬌声が頭の上から落ちてくる。好きなだけ弄んでから顔を上げれば、熱に浮かされたような顔があった。腰の辺りに甘い衝撃が走る。
「随分と弱いな」
ここが、と指の腹で乳首を押しつぶせば、声が零れた。そろそろと両腕で胸を覆い、責めるような眼差しを向けてくる。
「嫌だったのか?」
「…………嫌、です」
「それにしては気持良さげだったが」
「あなたが触ればなんだって気持良いに決まっています」
膨れっ面でそんなことを言われては、反省のしようがない。そもそも反省するつもりもないのだから仕方ない。ジャーファルの唇を指先でなぞり、軽く口付ける。肩口を撫で、腕を撫でる。腰や、尻に手を這わせた後、太腿を掴む。ほっそりとしているが弾力はある。その癖やわらかくて指が沈んだ。膝裏に手を差し入れ、開かせた後、体を滑り込ませた。秘裂に指を沿わせると、指先に粘液がくっついて糸を引く。
「……あまり、見ないで、ください……」
両手のひらで顔を覆うジャーファルは身を強張らせて、じっと羞恥に堪えている。体を重ねるのも随分と慣れたと思ったが、違う体ではまた恥ずかしさもあるのだろう。指で開いてみると、桃色の肉が見えた。粘液がまとわりついていやらしく光っている。解さずともすぐに性器を飲み込めそうだった。快楽を得たいと疼く性器を宥め、指で膣口を探る。ほんのわずか指を押し込んだだけなのに、簡単に飲み込み、逃がすまいと締めつけてきた。性器を突き立てる瞬間を思い浮かべれば、ぞくぞくと震える。指を引き抜く。性器を押し当てる。
「っあ、ああ、や、……ふぁ、んんっ!」
初めてとは思えぬほど簡単に奥まで性器を飲み込み、包み込む肉はやわらかい。蠢く内壁が肉棒をしごき、すこし動いただけで達してしまいそうだった。息を詰め、呼吸を整える。思考が下半身に移動した気がする。快楽を貪ることしか考えられなくなる。
「や……っ、うご、かないで……!」
「う、ごいてない、ぞ……っ」
声を搾り出して伝えるが、ジャーファルには届いていないようで、首を振るい、いや、だめ、と繰り返していた。そのかすかな動きさえ快楽に結びつく。更には、いや、だめ、と繰り返す声が理性の糸を引き千切ろうとする。どうにでもなれ、とジャーファルの体を突き上げた。
「――っああ!」
背を仰け反らせる。きゅうっと締めつけられる。腰を引き、また突き上げた。今度は声もなく背を仰け反らせ、足を突っ張らせている。中の締めつけはきついほどで、その癖やわらかく性器を受け入れていた。びくびくと体を痙攣させているジャーファルは達したらしかった。達したすぐ後に動かれるのは辛いと知っていたが、気遣う余裕がない。すぐさま腰を引き、中を抉る。
「許して……!あ、あ、やぁ……っ」
涙を零しながら許しを求めるジャーファルの最奥を先端で擦るようにして、体を押しつけた。もっと奥に、もっと気持良くなりたい、体の隅々まで貪りたい。欲望ばかりが膨れ上がる。下半身に血が集まる。
だが、中に出して良いものかわからず、射精する前に抜き取ろうと腰を引く。完全に抜ける前に、腰に足が絡みついた。白い両足が腰を掴んで、抜くことができない。困惑しながらジャーファルを見れば、じっと見つめながら首を振るった。赤い唇が震えながら開く。
「……中に、ください……!」
快楽に濡れた目が必死に訴える。はやく、と唇が動く。頭がぐらぐらと揺れている気さえする。言葉のまま腰の動きを再開した。突き上げると同時に腰を引き寄せ、打ち付ける。中で膨れ上がり、弾けた。中に注がれているのがわかるのだろう、ジャーファルの体は震え、最後の一滴まで搾り取ろうと締めつける。
息を吐き、性器を抜き取る。
「っん、……はぁ……っ」
うっとりと目を細め、余韻に浸っているジャーファルの頭を撫でた。
「どう、でしたか……?」
「お前はいつだって可愛い」
男でも女でもそれは変わらない、そう言えば、瞬きをした。
「…………気持良かったですか?」
可愛い、は得たい答えではなかったかと苦笑を零し、額に唇を寄せる。
「すごく良かった。お前以外と体を繋げることなど考えられなくなるほどに」
今度は満足したように「はい」と笑って頷いた。
「私も、あなた以外と体を繋げることなんて考えられない」
囁かれた言葉は、目眩を覚えるほどに嬉しい。だが、すぐに心配になる。――お前、これから先、魔物としてやっていけるのか、と。
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