「マスルール」
名前を呼ばれて振り返れば、にこにこと笑うジャーファルがいた。何かが違うと感じたが、何が違うのかわからない。首を傾げていると、ふふっと肩を揺らして笑った。黒目がちな目は、気づかない?と悪戯な色を浮かべて、マスルールを見上げている。
「きみのために頑張ったんだよ」
そう言い、両腕で胸を寄せてみせた。違和感の正体に気づき、納得する。ジャーファルの胸は決して大きいとは言えない。貧乳とはまではいかないが、平均的な大きさで、今のように布を押し上げ、布を引っ張るような質量ではなかった。じっと見つめていると、ジャーファルの手が伸びきて、マスルールの手を取る。手のひらに頬を押し当て、口を開く。その目は愛しげに細められ、注がれる愛情を否応無しに認識させた。
「なんでも、していいよ」
すり、と手のひらに頬擦りしながら、そんなことを言う。もう一方の手を伸ばし、両手のひらでジャーファルの頬を包み込むと、軽く口づけした。もう一度、とねだる声に誘われて、再度唇を押しつける。今度は長く口づけた。そんな口づけを何度も繰り返しながら、手のひらを滑り落とす。下から持ち上げるようにして、胸を鷲掴みにすると、「あッ」と声を零した。痛かったのか、と慌てて手を離す。
「いきなり鷲掴みにするからびっくりしただけ」
大丈夫だよ、と耳元で囁かれた。安堵して、また手を伸ばす。下から持ち上げるようにして掴むと指が埋まった。やわらかい感触を味わうようにゆっくりと指を動かす。指だけでは物足りなくて、胸の谷間に頬を擦り寄せる。頬に伝わるのは、どこまでも沈み込んでいきそうなやわらかさで、その上に優しく頭を撫でる手が加わった。
「……気持良い?」
「はい」
素直に答えれば、良かった、と笑う声が落ちてくる。たまらなくなってジャーファルを押し倒し、覆い被さった。服の裾を引っ張り上げ、胸を露にする。ふるんっ、と大きな質量の乳房が揺れ、目の前に差し出された。白い肌は薄らと桃色に上気し、乳首はぷっくりと起きあがっている。
「すこし、恥ずかしい、かな」
視線を上げれて見れば、頬を赤らめ、目を伏せているジャーファルの、羞恥を浮かべた顔があった。痺れが全身を震わせ、下半身に熱が集まっていく。性交に対する期待と共に膨れ上がるのは、独占欲だ。この人を自分のものにしたい、その考えに支配される。 直接乳房を揉み込むと、びくっと体を竦ませた。けれど、拒絶の言葉はない。顔を埋め、白い肌へと舌を這わせた。肌を唾液塗れにした後、大きく口を開き、乳首を銜える。
「……ッふぁ、あっ」
身を捩るも、引き剥がそうとする腕はなく、大人しく体を預けていた。舌の腹を擦りつけ、次に突くようにする。たっぷりと唾液を塗り込めた後に、きつく吸い上げれば、嬌声が上がった。
「やっ、だめ、そんな強く……吸っちゃ……ッ!」
びくびくと全身を震わせながら、色の籠った声で嘆願されて、引き下がれる訳がない。手のひらで優しく乳房を撫でながら、音を立てて乳首を吸い上げ、唇で挟んで転がす。
「あっ、あ、やだったら……!」
「……嫌なんすか」
唇を離せば、吸い上げられていた乳房が重力で落ち、ふるりと揺れた。手のひらはまだ肌を撫でている。じっと見つめて問えば、眉を寄せて、視線から逃れるように顔を背けた。
「…………いや、じゃない」
そう呟く顔は耳まで真っ赤だ。
「でも、きみの口元のが、冷たいのに、舌が、熱くて、だから」
羞恥のせいか、伝えられる言葉はたどたどしい。唇の下の装飾具を指先で触れれば、ひんやりした感触が伝わった。冷たさと熱さに振り回される、とジャーファルは言っているのだろう。それのどこが問題なのかわからない。
「嫌じゃないんすよね」
確かめたいのはそれだけだ。嫌だと言われたところで止めはしないのだが、どうせなら通じ合っていたい。ジャーファルは静かに頷く。ちいさく安堵の息を吐き出した後、ふかふかした乳房に顔を埋めた。やわらかく、しっとりとした肉の感触は心地良かった。多少唾液でべたついていたが、自分でしたことだ。仕方ない。しばらく肌の質感を味わっていると、頭を撫でられた。よしよしと子供をあやすような手付きは眠りを誘う。
「マスルール」
優しい声が呼ぶ。顔を向ければ、手が伸びてきて、頬を包み込んだ。額に唇を押しつけられる。……固い。こつこつと額に当たる唇は、鳥の嘴を思い出させ、眉を潜めた。


「……」
目を覚ませば、一匹のパパゴラスが額をこつこつと嘴で叩いていた。目を閉じる前、暗かった空はすっかり明るくなっている。昨日の朝議が終わった後、もう遅刻しちゃだめだよ、とジャーファルに言われたことを思い出した。まだ寝ていたい、その気持を押さえ込み、のそりと起きあがる。パパゴラスの頭を指先で軽く撫で、立ち上がった。向かう先は決まっている。ジャーファルの部屋だ。
「今日は早起きだねえ」
部屋の扉を開ければ、身支度を終わらせたジャーファルが出迎えてくれた。えらいえらい、と手を伸ばし、頭を軽く撫でる。ジャーファルの胸元を見れば普段と変わりはなかった。ちいさくもなければ、大きくもない、そんな膨らみだ。それでも手を伸ばし、大きさを確かめるように胸を鷲掴みにする。
「……ッ?!」
いきなり胸を掴まれ、硬直し、目を見開くジャーファルの様子には頓着せず、もにもにと揉んでみる。やはり触り慣れた感触と大きさだ。
「い、いきなり鷲掴みにするのはやめなさい」
硬直の解けたジャーファルが言う。はい、と返事をし、手のひら全体で乳房を揉み上げれば、びくっと体が跳ねた。
「いきなりじゃなきゃいいんすか」
「……時と場合に寄ります」
眦が薄らと赤くなっている。白く細い手が、窘めるようにマスルールの手の甲を叩くが、あまり効力はない。時と場合を選んで、ゆっくりと鷲掴みにするのは許されると脳裡に刻み込み、腰帯を解こうとすると、そこで慌てたように身を引いた。
「いくら早起きしたって、会議に遅刻しちゃ意味がないでしょう?」
「はあ」
わずかに乱れた服を整えながら、警戒心を覗かせるジャーファルの姿はとてもそそる。情欲というよりは狩猟本能とでもいうべきものがくすぐられて、落ち着かなくなった。押し倒し、性交を強いても、許してくれるのはわかっている。頑張れば会議にも間に合うだろう。けれど、疲れた体で仕事をしなくてはいけなくなる。ジャーファルが。忙しく働くジャーファルに無理はさせたくない、と大人しく手を引っ込めた。
「……今晩」
「今晩は、ちょっと忙しいから難しいかな。明後日なら余裕がありますよ」
それでいい?と尋ねるジャーファルに頷きを返す。
「我慢出来なきゃ、今日のお昼にすこし時間作ってあげるから」
さらりと言いながら、部屋の扉を開ける。ジャーファルの後をついて行きながらマスルールは改めて思う。この人は本当に俺に甘い、と。


:マスくんに狩られちゃうジャーファルさんください。